【ニュース/コラム】「赤ちゃん抱っこさせて?」道行く人に言われて困惑——親たちが“曖昧な態度”を選ぶ理由

最近、Yahoo!ニュースに掲載された『「赤ちゃん抱っこさせて?」道行く人に言われて困惑!!「断ったら角が立つかも」とっさの逃げの一言が絶妙だった』(ウォーカープラス)という記事が話題になっています。

記事では、ある若い母親が道で高齢女性に「赤ちゃん抱っこさせて」と声をかけられ、「断ったら角が立つかも…」と困惑しながらも、「この子、人見知りなんです」ととっさに返して、相手の気分を損ねることなくその場を離れたというエピソードが紹介されていました。

この話に対し、「ナイス判断!」「やんわり断るのが一番賢い」という共感の声があがる一方で、あるコメントが目を引きました。

〇以前、見知らぬ人から「抱っこさせて」と頼まれたという育児中の方が、「知らない人に簡単に触らせるほど自分は寛容ではない」ときっぱり返した、という話を見かけました。たしかに、良い人を装って近づいてくる人の中には、悪意を持っている場合もあり得ます。そう考えると、迷わず断る姿勢も必要だという意見にはうなずける部分があります。


この「バッサリ断る」姿勢は確かにスカッとするものがあります。自分の境界線を明確に示し、相手に迎合しない態度は勇ましく、称賛されやすいものです。

しかし一方で、現実はそんなに単純ではありません。




■“角を立てない”ことは弱さではない

私自身、ある出来事がありました。
エレベーターの中で、見ず知らずの人に突然赤ちゃんを触られたのです。
逃げ場のない密室。とっさのことで手を払うこともできず、相手が逆上したらどうしようという恐怖だけが頭をよぎり、ただ固まってやり過ごすしかありませんでした。

あの時、私は何もできませんでした。でも今でも、「一体どうすればよかったのか」と考え続けています。

誰にでも「言い返せばよかった」「避ければよかった」と思う瞬間はあります。でも、その場で怒らなかったのは弱さではなく、子どもの安全を最優先に考えた結果の選択だったのです。




■“曖昧さ”が意味するもの

親はいつも、相手がどんな人か見極める暇もなく、「どうやってこの場を荒立てずに去るか」「どうしたらトラブルを起こさずに断れるか」を常に頭の中でフル回転させています。

それは一見「優柔不断」「曖昧」と見えるかもしれません。でもそれは、子どもを守るための“戦略”であり、“本能”でもあるのです。

ある男性が「子どもを持って初めて、女性が曖昧な態度でやり過ごすことの意味がわかった」と語っていたのを思い出します。

「毅然としない」「言い返さない」は、決して負けではありません。むしろ、目の前にいる赤ちゃんの安全を第一に考えた、とても賢くて責任感のある対応なのです。




■“正しさ”より“安全”を

ネットでは、「そんな相手、バッサリ断ればいい」「毅然としろ」という意見も見かけます。
でも、実際には“正しさ”よりも“安全”を選ぶべき場面がたくさんあります。

親がやんわりと断るのは、「気が弱い」からでも「いい人ぶってる」からでもありません。
むしろ、相手の出方が読めない場面で、子どもを守るための最も現実的な選択肢なのです。

「赤ちゃんに触らせて」などの声かけは、相手の悪意の有無にかかわらず、親にとって非常にデリケートな問題です。そして、どの対応が“正しい”かは、その場の状況次第で変わります。

だからこそ、他人がその対応を簡単に評価したり、「毅然としろ」とだけ言うのは危険です。
親は一瞬で判断し、曖昧さを武器にして、子どもを守っている。
そのことを、もっと社会全体が理解できるようになってほしいと感じます。




■同じ視点で見たい、性被害者へのまなざし

実はこの問題は、性犯罪や性暴力の被害者に向けられる「なぜ抵抗しなかったのか」「なぜ逃げなかったのか」といった言葉ともつながっています。

恐怖の場面では、「声を出さない」「動かない」「逆らわない」という行動は、命や心を守るための“最善の選択”であることが多いのです。

抵抗すれば危害を加えられるかもしれない。
拒否すれば逆上されるかもしれない。
だからこそ、“曖昧にやり過ごす”という対応をとることは、生存戦略なのです。

親が子どもを守るために頭をフル回転させるのと同じように、性被害の被害者もまた、その場でできる限りの判断をしただけなのです。

「毅然としないのは悪」「声を上げないのは同意」——
そうした社会の誤解が、被害者をさらに傷つけてしまうことを、私たちは忘れてはいけません。




参考になりそうな資料

国立女性教育会館:『女性に対する暴力に関する基礎知識』
https://www.nwec.go.jp/about/policy/violence.html

山口真美『子育てのリアルを支える「見えない努力」』PHP新書

瀧波ユカリ『ママはテンパリスト』集英社(体験ベースのエッセイ漫画)

伊藤詩織『Black Box』文藝春秋(性被害の「声を上げる難しさ」を描いた記録)





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