■ 「最近の若者は…」という言葉に違和感
「最近の若者は根性がない」「楽なほうばかり選ぶ」「我慢が足りない」――年配の方から、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
けれど私は、こうした言い方に強い違和感を覚えます。なぜなら、それは生まれた時代の違いによる「人生の攻略難易度」の差を無視しているように思えるからです。
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■ 生きる時代で、人生の難しさはまったく違う
たとえば、1950〜60年代生まれの方々は、高度経済成長とバブル期を経験し、「頑張れば報われる」時代を生きてきました。終身雇用や年功序列が機能しており、住宅ローンや年金制度も今よりずっと安心できるものでした。
一方、1970年代後半〜1990年代生まれの「就職氷河期世代」や「ロスジェネ世代」は、就職難や非正規雇用の増加という厳しい社会構造の中で苦労してきました。
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■ 2000年代生まれの若者はどうか?
最近では、2000年代に生まれた若者たちについて、「人数が少ないために人手不足で有利」「初任給が過去にないほど高い職場もある」といった声もあります。実際、少子化の影響で採用市場は売り手市場の面もあり、柔軟な働き方や多様性の理解も進んでいます。
しかしその一方で、将来の社会保障制度の不安定さや物価上昇、SNSによる精神的プレッシャー、格差の固定化など、新たな困難も多く存在します。
つまり、彼らの人生は「単純に恵まれている」とは言い切れず、難しさの「質」が変わっている状況です。
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■ 若者の選択は、弱さではなく「合理性」
人間は、環境に適応しながら生きる生き物です。
かつてのように、会社に尽くして家を買い、定年まで働いて老後を楽しむ、という一本道のモデルは、今の若者には現実的ではありません。
彼ら・彼女らが選ぶ「無理しない」「自分らしく働く」「趣味を大事にする」生き方は、弱さではありません。むしろ、構造的に不利な社会の中で最善を尽くすための合理的な選択なのです。
それを「甘い」「根性がない」と批判することは、問題の本質を見誤ることになります。
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■ 生まれ年で変わる「人生の攻略本」
ゲームに例えるなら、ある世代は「ノーマルモード」でプレイできたのに、今の若者は「ハードモード」や「ナイトメアモード」を強いられているようなものです。
同じ「20歳」でも、
1980年に20歳だった人
2010年に20歳だった人
2025年に20歳になる人
では、社会のルールも支援制度も、求められるスキルも全く違います。
だからこそ、過去の攻略法が通じない世代に「昔はこうだった」と押し付けることはできないのです。
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■ 若者への説教より、時代への理解を
「近ごろの若者は…」と嘆く前に、まず問い直してほしいのです。
その若者は、どんな時代に生まれ、どんな構造の中で生きてきたのか?
自分と同じ方法で努力しても、それが報われる環境だったのか?
年配の方が悪いわけではありません。むしろ、時代の恩恵を受けられたことに気づいている人は少ないのかもしれません。
だからこそ、今の若者たちの苦しさや工夫に、もう少しだけまなざしを向けてほしいと思います。
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■ おわりに
若者は決して怠けているわけでも、弱いわけでもありません。
彼らは、社会の変化を敏感に感じ取り、その中で自分なりの合理的な選択をしながら生きています。
無理をせず、自分を守りながら、楽しさを大事にするのは、むしろとても賢いサバイバル術です。
私たちは、他の世代に対して「こうあるべき」と説教するよりも、時代ごとの難しさを知り、お互いの選択を尊重し合う社会を目指すべきなのではないでしょうか。
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参考文献・データ
内閣府「国民生活に関する世論調査」
OECD「How’s Life?」ウェルビーイング指標
労働政策研究・研修機構「就職氷河期世代に関する研究」
橘木俊詔『日本の「幸福度」はなぜ低いのか』(岩波書店)
宮台真司・鈴木謙介『14歳からの社会学』(日本図書センター)
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【コラム】人生の難易度は生まれ年で決まる?時代で全く違う若者の生きづらさと合理的な選択
