【コラム】「シャドウ・ワーク/女性は働け、でも家のこともやれ?」――“自己責任社会”が強いる二重労働

「シャドウ・ワーク」という言葉をご存知でしょうか。これは、賃金が発生せず、目に見えにくい労働のことを指します。
家事や育児、PTA活動、職場での雑務や感情労働も含まれます。

近年、こうしたシャドウ・ワークが女性のキャリアに与える影響についての議論が盛んになってきました。確かに、それ自体が大きな問題です。ですが、もっと深く考えてみると、シャドウ・ワークをしている女性に対して**「正社員としても働き続けなさい」と求める社会構造**のほうが、より深刻ではないでしょうか。




■誰も強制していない?それでも働かざるを得ない

「女性が正社員で働くことを誰も強制していない」という意見があります。しかし、実際には以下のような現実があります。

・専業主婦やパート勤務では、将来の年金額が大きく減る

・配偶者が失職・病気になった場合に備えて、家計のリスク分散が必要

・自身が事故や病気で働けなくなった際、逸失利益が低く見積もられる

・離婚や死別後に経済的に自立できない可能性


つまり、「正社員で働いていないと将来が危うい」という社会設計の中で、実質的には女性にも働けという無言の圧力がかかっているのです。




■分担しても、家庭内労働はゼロにならない

「夫婦で家事や育児を分担すればいい」という声もあります。ですが、どんなに分担しても、シャドウ・ワークが誰かの心身のリソースを確実に消費することは変わりません。

また、現実には、家事育児の責任者は女性側に偏りがちです。分担したとしても、「指示出し役(家庭マネジメント)」は無意識に女性が担ってしまいがちです。結果的に精神的負荷の非対称性が生まれ、表面的な「半々」では済まないのです。




■共働きで分担しても、仕事の重さはそのまま

もっとも大きな問題はここです。

たとえ夫婦で家事育児をきっちり分担できたとしても、正社員という働き方の負荷そのものが軽くなるわけではありません。
つまり、「正社員×2 + シャドウ・ワーク」で生活が回っている状態で、どちらかが少しでも崩れれば共倒れのリスクが高まるのです。




■性別の問題ではなく、構造の問題

この問題は、女性だけの問題ではありません。介護を担う男性、ひとり親、非正規で働く人、すべてに共通する問題です。

問うべきは、**「シャドウ・ワークを担う人間に、なぜ正社員フル稼働を前提にする社会なのか」**という構造的な問いです。




■持続可能な働き方とは?

・フルタイム正社員だけが「一人前」とされる社会からの脱却

・シャドウ・ワークも含めて評価し、制度に反映する

・労働の柔軟化(時間・場所・雇用形態)を前提とする仕組みづくり

これらが必要です。

「家庭と仕事、どっちを取るの?」ではなく、「どちらも大切にできるように社会が調整すべき」時代になっているはずです。




📚参考文献・情報元

TBS CROSS DIG with Bloomberg『家事・育児など「見えない労働(シャドウワーク)」が女性のキャリアに及ぼす影響』  https://news.yahoo.co.jp/articles/3061db5d2f30b9e3ec1487f6dddf062674e1e6ef

内閣府 男女共同参画白書(2023)

厚生労働省「年金制度における女性の課題」

三浦まり・樋口恵子『女性活躍の罠』(岩波書店)




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