地方創生、移住支援、地域活性化。さまざまな施策が展開されているにもかかわらず、地方には「戻ってこない若者」、とりわけ「女性が定着しない」という共通の悩みがあります。なぜ若い女性たちは、ふるさとに根を張ることが難しいのでしょうか。
それは、単に仕事や教育、交通の問題ではありません。根底には「その土地の文化的構造」が深く関係しています。
社会学者テンニースの概念で言えば、地方は典型的な「ゲマインシャフト(共同体社会)」です。人と人のつながりは密接で、助け合いも多い反面、「空気を読む」「その場に合ったふるまいをする」ことが重視されます。
その一方、都市は「ゲゼルシャフト(利益社会)」。合理性や契約、個人の自由をベースにした社会構造で、たとえ考えが違っても「あなたはあなた、私は私」で済みます。
若い人、特に女性にとってゲゼルシャフト的な社会が魅力的に映るのは、立場に関係なく、役割を果たしたり利益をもたらしたりすれば、平等に扱われるからです。年齢、性別、出身といった属性ではなく、「どんな仕事をしたか」「どんな価値を提供したか」で判断される社会は、立場によって意見を封じられることもなく、それぞれが個人として尊重されやすい環境です。
ゲマインシャフト的な地域では、伝統や慣習に合わない言動は「場を乱すもの」と見なされがちです。たとえば、若い女性が地域の在り方や仕組みに対して「これはおかしい」と声を上げても、真っ先に責められるのはその女性です。意見の正しさよりも、「波風を立てたこと」自体が問題とされるのです。
そして、これは性別のバイアスと結びつきやすい。田舎では今もなお、「女性は控えめで従順であるべき」という価値観が根強く残っており、意見を言う女性=扱いづらい、というレッテルが貼られやすいのです。
若い女性が都市に流出し、戻らない背景には、こうした「息苦しさ」が確実にあります。
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