【構造から考えるシリーズ】
「昔は支援なんてなくても子育てできた」は本当か? ― “見えない支え”があった時代と、今の重すぎる家庭負担

「昔は保育園も手当もなかったけど、みんな子どもを育てていた。今の親は甘えすぎじゃないか?」
そんな言葉を耳にしたことはありませんか?

しかし、それは本当に「支援がなくてもやっていけた時代」だったのでしょうか?
実は違います。当時は支援がいらないほど、社会構造が家庭を支えていた時代だったのです。今とは構造そのものが異なります。




■ 昔の子育てを可能にしていた“見えない支え”

かつての家庭は、次のような要素に自然と支えられていました。

● 三世代同居や地域の支え

祖父母と同居している家庭が多く、家の中に常に大人の目がありました。近所づきあいも濃く、「誰かが見てくれている」安心感がありました。

● 専業主婦が多数派だった社会

1960〜80年代は「専業主婦」が標準モデル。育児と家事は仕事と切り離されており、時間的・心理的余裕がありました。

● 一馬力で成り立つ家計

当時は終身雇用・年功序列のもと、1人分の収入で家族を養えました。マイホームも現実的な目標であり、物価も低く、暮らしにゆとりがありました。

● 教育費も生活費も安かった

たとえば、1975年の国立大学の授業料は年額12,000円。
2025年現在では535,800円。約45倍の負担増です(※1)。
また、「習い事」や「スマホ」も不要な時代だったため、教育費や日常生活のコストは今よりはるかに低く抑えられていました。




■ 今の子育てが“支援なしでは立ち行かない”理由

現代の親世代は、以下のような構造の中で子育てをしています。

● 核家族化と孤立

三世代同居は激減し、2020年の国勢調査では15%未満。
親は「ワンオペ育児」や「孤育て」に追い込まれやすく、地域社会のサポートも乏しくなりました(※2)。

● 共働きでもギリギリの家計

1990年代以降、可処分所得は下がり続けています。

 実質可処分所得の変化(世帯平均)

1994年:約510万円

2022年:約430万円
(※3 総務省 家計調査)


一方、消費税は0% → 10%に上昇し、社会保険料の負担率も大幅アップ。

 社会保険料+税の国民負担率(財務省)

1980年:31.7%

2020年:44.3%

2023年:47.5%(見込み)(※4)


● 年少扶養控除の廃止による逆風

かつては、子ども(特に中学生以下)を育てる家庭には年少扶養控除(0~15歳の子ども1人につき最大38万円の所得控除)があり、税負担が軽くなっていました。

しかし、2012年に年少扶養控除は廃止され、その代わりに「子ども手当(現・児童手当)」が導入されました。
ところが、手当額の少なさや、子どもの年齢差によって第◯子のカウントが変わることで、支給額が途中で減るケースも多いことなどを考えると、「実質的に増税された」状況となる家庭も少なくありません。

さらに、扶養控除があれば恩恵を受けていた中〜高所得層が、近年まで児童手当の所得制限によって支援対象から外れていたという事実もあります。
その結果、「支援はあるはずなのに、実感がまったく伴わない」家庭が増えていることが、現在の大きな課題です。



■ 教育・IT・習い事が“生活必需”になった時代背景

かつて「ぜいたく」とされたスマホ・塾・大学進学は、今や社会に適応するための最低限のインフラに近づいています。

スマホがなければ学校連絡に支障

塾なしでは入試対策が困難

大卒が採用条件の職種も多数


その結果、家庭ごとの教育格差が将来の収入格差につながりやすくなっています。これは親の「ぜいたく」ではなく、社会の変化への“必然的な適応”です。




■ まとめ:「昔は支援がなくてもできた」は、“前提が違った”だけ

今の親たちは、かつて当たり前に得られていた支えが失われた社会で、子育てをしています。
一方で、税・保険料などの負担は確実に重くなり、社会の期待は高まり続けています。

そんな中で子育てが苦しいのは「甘え」や「ぜいたく」ではなく、社会構造の変化と、制度の不整合が原因です。




■ 求められているのは、「昔の我慢」ではなく、「今に合った再設計」

昔の支援がいらなかった時代は、“それで回せる仕組み”があったからこそ成立していました。
今はその仕組みが崩れ、支援が必要な構造に社会が変化しているのです。

求められるのは、
「我慢せよ」「ぜいたくをやめよ」ではなく、
現代の現実に即した制度設計と再配分です。




【参考文献・出典】

※1:文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」

※2:総務省「令和2年 国勢調査」

※3:総務省「家計調査年報(家計収支編)」

※4:財務省「国民負担率の推移」

その他:厚生労働省「国民生活基礎調査」、内閣府「少子化社会対策白書」など



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