【対立する視点シリーズ③】「選べる働き方」は実現できるか?自由と保護を両立するために

これまでの2回で、残業規制の緩和に対する「賛成」「反対」の両論を取り上げました。
賛成派は「もっと働きたい人の選択肢を増やすべき」と主張し、反対派は「健康と家庭が犠牲になる」と警鐘を鳴らしました。

では、この二つの視点は本当に対立しかないのでしょうか?
「もっと働きたい人」と「働きすぎたくない人」が共存できる社会のあり方について、今回は建設的に考えていきます。




■ 本当の「選択肢」は制度が支えるもの

賛成派の「自由に働ける社会」という主張は一見もっともに聞こえますが、実際にはその自由は制度によって大きく左右されます。

たとえば、ある人が「残業して収入を増やしたい」と思っていても、それが他の同僚の残業圧力になるようでは、真の選択肢とは言えません。
同様に、「家庭との両立をしたいから残業をしたくない」と思っていても、その選択をすれば評価や昇進に響くようでは、それもまた「自由」ではありません。

つまり、制度設計が偏っていると、個人の選択は“自己責任”という名の無力に変わってしまうのです。




■ 必要なのは「分ける」制度

そこで重要になるのが、働き方の制度を「分ける」ことです。

① 週◯時間以上働く契約と、それ以下の契約を明確に区別する

フルタイム以上の「時間超過労働契約」は、本人希望・健康審査・上限付きで選択可能にする

一方、通常の労働契約には厳格な残業上限と罰則を設け、雇用側の圧力を排除する


② 柔軟な勤務体系の制度化

「時差出勤」「週4日正社員」「在宅メイン」「育児中は最大時短6時間勤務可」など、多様な労働モデルを整備

働き方の選択肢ごとに、給与・評価・福利厚生への影響を明示する


③ 評価制度の見直し

「長時間労働を評価する文化」から、「成果と貢献度で評価する文化」へ転換

定時で帰る人が損をしないシステムにする





■ 政策に必要な支援と規制のバランス

制度をつくるうえで大事なのは、「自由」の中に「保護」があることです。

労働者が長時間労働を選ぶ場合でも、健康診断・強制休暇・深夜業制限などで一定の安全網を敷く

一方で、過労を防ぐための**強制的な休息制度(週◯時間の業務停止など)**を導入し、使いすぎを防ぐ


また、子育てや介護など家庭責任を抱える人に対しては、勤務時間や通勤距離の制限が可能な「家庭支援型雇用区分」の創設も一案です。




■ 企業も「選ばれる」時代に

企業にとっても、「長時間労働をさせられる」職場環境は、若者や優秀な人材から避けられる時代になっています。
実際に、残業を削減した企業が生産性を上げ、採用競争力を高めた事例も増えてきました。

・時間で縛るのではなく、目標と成果でマネジメント

・フレックスやリモート導入による定着率の向上

・子育て世代の離職防止・多様な人材の活用


働き方の制度を多様化することは、経営側にも利益がある「投資」だと言えます。




■ 結びにかえて

「もっと働けるようにする自由」と「これ以上働かなくて済む自由」は、どちらも大切です。
しかしそれを支えるには、「自由のためのルール」が必要です。

個人が自分に合った働き方を選べて、健康にも家庭にも犠牲を払わずにすむ社会。
そんな“選べる働き方”の土台を築くことこそ、本当に持続可能な働き方改革なのではないでしょうか。




📚 参考文献

経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年)

厚生労働省「働き方の多様化に関する研究会報告書」

OECD「Better Work-Life Balance」レポート

『労働時間の経済学』(濱口桂一郎)

経団連「多様な働き方推進ガイドライン」





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