2025年6月にAERA DIGITALが報じた記事(Yahoo!ニュース経由)によれば、福岡県内の非正規公務員として勤務していた女性が、妊娠を機に年度末で契約を打ち切られ、産休・育休を取得できなかったケースが取り上げられました。この女性は市役所の非常勤職員として勤務しており、勤務態度にも問題はなかったとされています。
妊娠を報告後、女性は「4月からの更新には、4月から勤務できることが条件」と告げられました。しかし、4月はまさに出産予定であるため、実質的には「更新できない」と言われたも同然でした。非正規公務員といえども、勤務実績が認められれば継続雇用される制度であり、女性が本省に問い合わせたところ、「更新相当」との判断が示されていたにもかかわらず、直属の上司は次のように方針を変更しました。
「4月からは勤務条件が変わるため、公募となる。契約更新ではなく採用試験という形で選考を行うので、あなたも受けてほしい」と告げたのです。つまり、継続して働くには新たに採用試験を受けなければならず、しかも出産で不在になることが分かっている女性にとっては不利な条件でした。彼女が「この状況で受かるのか」と尋ねたところ、上司は「それは組織が判断する」と答えました。
さらに上司は、「妊娠・出産の時期が契約更新のタイミングと重なったことが“ネック”になった」と述べ、妊娠が問題視されている実態を事実上認める発言をしています。
そして、別の女性職員は、妊娠後に「夫に養ってもらえばいいじゃないか」と上司から言われたと証言しています。これは妊娠・出産を「個人の家庭事情」とみなし、職場から切り離す論理であり、女性の就業継続を著しく困難にする言葉です。
形式的には「業務都合」や「制度的制約」に見える対応であっても、実際には妊娠・出産を理由に雇用継続を拒否している、いわば体裁を整えた“妊娠切り”である点に、この事例の重大さがあります。
雇用側の視点に立つと、非正規職員の契約更新はそもそも義務ではなく、毎年度の業務内容や予算状況に応じて判断されるという建前があります。妊娠による長期の離脱が見込まれる場合、継続的な業務遂行のために代替人員を配置したり、配置転換を要することが難しいため、やむを得ない判断とする向きもあるでしょう。
厚生労働省の「働く女性の実情と支援策(2022年)」によると、非正規雇用で働く女性の約20%が妊娠・出産をきっかけに退職や雇い止めを経験していると回答しています。雇用側にとっては、制度や法令が整っていても、実際の現場では人員配置や業務引き継ぎの余裕が乏しく、制度の「使いにくさ」があるという事情も存在します。
また、妊娠を理由に契約を更新しないとは明言せず、「再募集」「選考」などの名目で事実上妊婦を排除する方法が取られることもあり、これが法的に問題か否かの判断はケースバイケースとなります。使用者側は、こうした事例が不当解雇に当たらないよう、慎重な言動と書面の整備を行う傾向が強まっています。
このような立場からは、雇い止めの判断が必ずしも妊娠差別に直結するとは限らず、業務上の必要性や組織防衛的判断と見ることもできるのです。
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【対立する視点シリーズ①】「夫に養ってもらえばいい」――雇用側の業務都合という名の“妊娠切り”の構造
