【ニュース/コラム】産後うつを減らすには?「頼れる人4人」で終わらせず、交代が当然の社会に

2025年6月、日テレNEWSが報じた内容によると、産後うつの予防には「妊娠中から“頼れる人”を4人確保することが望ましい」とされています。
この意見は、筑波大学の山本詩子教授(助産学)によるもので、出産後の女性が孤立せず、心身の安定を保てるようにするには、少なくとも4人の支援者が必要だという研究結果に基づいています。

この「4人」という数字は、実際に育児の手伝いをしてもらうだけでなく、気持ちを話せる人・見守ってくれる人・実務を支えてくれる人など、多様な役割があることが前提です。
家族だけでなく、友人、地域の保健師や支援者、オンラインの仲間なども含まれます。

「誰かに頼れる」ことは、たしかに大きな安心材料になります。
しかし、この「頼れる」という言葉に、そもそも私たちが前提としてしまっている育児の在り方の偏りが見えてきます。




■「頼れる」という言葉が示す、育児=母親の暗黙の前提

「頼れる人を探しましょう」という表現は、一見ポジティブなように見えますが、よく考えると、育児はまず母親が担い、それをサポートする人を見つけてくださいねという構図を暗黙に含んでいます。

本来、育児とは家族や地域、社会が連携して担う共同の営みであるはずです。
最初から「みんなで育てるもの」という前提があれば、「誰かに頼る」という表現そのものが必要なくなるのではないでしょうか。




■ワンオペ育児は、365日同じ医師が当直するようなもの

育児の過酷さを語るとき、「ブラック企業並み」という表現が使われることもありますが、ここでは別の視点からたとえてみたいと思います。

それは、医師の当直勤務です。
医師は、夜間・休日を含む勤務が過酷であることから、当然のように交代制が採られています。
人の命を扱う仕事だからこそ、長時間労働は制度的に制限されているのです。

では、もし同じ医師が24時間365日ずっと当直勤務していたらどうなるでしょうか?
「無理だ」「過労死する」「そんな働き方は認められない」と誰もが思うはずです。

どんな職場でもそんな勤務形態は許されませんし、「誰かに頼れ」と言う前に、交代勤務が前提で設計されているはずです。

なのに、育児になると、それとほぼ同じ状況が「仕方ない」とされ、「誰かに頼れるよう準備しておきましょう」とだけ言われて終わってしまいます。

育児だけがワンオペから抜け出せていないのだとしたら、それは制度としても、体力的にも、精神的にも、破綻して当然です。




■「頼る」ではなく、「交代して当然」な社会設計へ

もちろん、「頼れる人が4人いる」ことは大切ですし、実際に支えられて助かる場面も多いでしょう。
しかし、問題はそこに「母親がどうにか人脈を駆使して頼れる人を確保するしかない」という、個人任せの構造が潜んでいることです。

本当に必要なのは、「誰かに頼るかどうか」ではなく、誰もが当たり前に交代で育児に参加する社会の仕組みではないでしょうか。

具体的には、

・男女問わず育休を取りやすい職場制度

・保育園や一時保育、病児保育など、柔軟な保育支援の充実

・地域による育児支援のネットワーク化(たとえば週1回の地域交代育児デイ)

・「母親が育児の主体である」という無意識の思い込みからの脱却


こうした文化的・制度的な改革がなければ、結局また「頼れる人が見つからなかった母親」が追い詰められるだけになってしまいます。




まとめ:「個人努力」ではなく、「構造の変化」で産後うつを防ぐ

産後うつのリスクを軽減するために「頼れる人を4人」という指針は、実際的かつ有効な目安であることは確かです。
けれども、それを個人の努力や運に頼らせるだけでよいのでしょうか。

そろそろ、「育児は母親が頑張るもの」という前提を手放し、
育児はそもそも“交代制が前提”の業務であるべきだという認識を、社会全体で共有する必要があるのではないでしょうか。

それこそが、本当の意味で産後うつを予防する社会的な仕組みであり、母親だけが責任を背負い込まなくてよい未来への第一歩だと感じています。




参考文献・資料

山本詩子(筑波大学)氏の研究紹介(日テレNEWS NNN「妊娠中から“頼れる人”4人が必要」報道、2025年6月)

厚生労働省「母子保健事業の現状と課題」

オルナ・ドーナト著『母親になって後悔している』(タバブックス)



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