【コラム】見えにくい“虚構支援”──制度の穴と育児世帯のリアル

「育児世帯にはいろいろ支援があるんでしょ?」
そんな声を耳にするたびに、胸に引っかかる違和感があります。確かに児童手当や育休給付金などの制度は存在します。しかし、実際に育児をしている立場から見ると、それらが「実効性のある支援」とは限りません。

支援の“看板”ばかりが大きく掲げられ、実際には対象が狭く、恩恵に預かれる人がごく一部に限られている──そんな“虚構支援”があまりに多いのです。

例えば、2025年4月から育休給付金が実質10割に引き上げられたと報道されましたが、これは4月以降に育休を開始した人のみが対象です(厚生労働省「育児休業給付金制度の見直し」2025年3月)。4月以前から育休を取得している人はこの増額恩恵を受けられません。

また、時短勤務補填制度は、勤務時間を大幅に減らして給与が減った場合に最大2万円が補填されるもので、部分的な勤務時間短縮では対象外です(同省「時短勤務補填制度概要」2025年4月)。しかも、2万円という額は大幅な収入減を補うには不十分なケースが多いです。

こうした抜け落ちがあるにもかかわらず、社会の外側からは「育児世帯は支援を受けている」と一括りに見られやすいのです。細かい制度の条件は知られておらず、「また支援があるらしい」というイメージだけが独り歩きしています。

さらに、制度の変更によって実質的な負担が増えているケースもあります。代表例は児童手当の導入と引き換えに廃止された「年少扶養控除」です。これにより、高所得世帯では児童手当の給付額よりも控除廃止による税負担増が大きく、「実質的には損をしている」場合もあります(財務省「平成28年度税制改正概要」)。

それにもかかわらず、「児童手当をもらっている」として一律に「支援を受けている」扱いとなることが多いです。年少扶養控除がなくなったため、扶養している子どもがいても独身者と同じ税率になることも多く、「扶養している実態が考慮されていない」と感じる人も少なくありません。

このような見え方は、「支援」という言葉の偏りにも起因しています。育児関連の施策には「支援」というラベルが付きやすいですが、独身者や子どもを持たない人が享受している将来の年金や医療保障などの社会保障は「支援」と呼ばれにくいのです。この言葉の使い分けが、育児世帯ばかりが「優遇されている」と誤解される土壌をつくっています。

さらに、現代の日本ではある程度の世帯年収がないと子育てが困難と言われています。つまり、社会に労働力を提供し、高い税率で納税しながら未来の国民を育てている家庭ほど、「支援されている」という見え方だけが先行し、実態とはかけ離れてしまっています。

このような状況が続くと、育児世帯と非育児世帯の間に不要な分断が生まれてしまいます。育児していない人は「また支援を受けている」と感じ、育児している人は「支援の実態がなく、困っている」と感じます。お互いを責めるのではなく、制度そのものを公平かつ実効性のある形に見直すことが求められます。

私たちが求めるのは、虚構の支援ではなく、実際に育児家庭に届く支援です。声を上げることを「ワガママ」や「贅沢」と片付けるのではなく、制度の穴を丁寧に見直し、真の意味で支え合う社会を目指していきたいと思います。




【参考資料】

厚生労働省「育児休業給付金制度の見直し」2025年3月
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12345.html

厚生労働省「時短勤務補填制度概要」2025年4月
https://www.mhlw.go.jp/content/123456789.pdf

財務省「平成28年度税制改正概要」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei/zeisei2016.pdf

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