「日本は貧しくなっている」と言われて久しいですが、街を歩いても飢えて倒れている人や、路上生活をしている人があふれているわけではありません。
この「貧しいのに見えにくい」現象はどこから来るのでしょうか?
今回は日本の「見えにくい貧困」の実態と、親世代の経済的な余裕による同居が本人の貧困を隠している問題を中心に掘り下げます。
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1.飢え死にしない「相対的貧困」が増えている現状
日本で「貧困」というと、よく耳にするのが「相対的貧困」という概念です。
これは「絶対的貧困」(食料や住居すら確保できない状態)とは異なり、その社会の中央値や平均的な生活水準に比べて著しく低い収入や資源しか持たない状態を指します。
厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、日本の子どもの約7人に1人が相対的貧困状態にあると言われています。
生きるための最低限の食料や住居は確保できている場合が多いものの、教育や医療、文化的な生活機会からは大きく取り残されているのが特徴です。
このため、飢えて倒れる人がほとんどいない一方で、生活の質や将来の可能性が著しく制限されている「見えにくい貧困」が広がっているのです。
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2.見えにくい貧困:「隠れホームレス」「ネットカフェ難民」などの実態
日本では、海外のように路上にあふれるホームレスは比較的少ないですが、次のような形で貧困が存在しています。
ネットカフェ難民:家を失い、ネットカフェや漫画喫茶、24時間営業の施設を寝床にしている人々。特に若者や非正規労働者に多い傾向があります。
隠れホームレス:家がないため知人宅や実家を転々としている場合。目立たず「ホームレス」と認識されにくいです。
生活インフラの断絶:家はあるけれど電気やガスが止められていたり、エアコンや風呂が使えない状態で暮らす人もいます。
これらの形態は社会的に「隠れた貧困」と呼ばれ、外見や社会的な目線では把握しにくいのが特徴です。
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3.外見から分かりにくい現代の貧困事情
現代日本では、次のような要因により貧困が外見で判断しにくくなっています。
低価格ファッションの普及:ユニクロやGUなど、比較的安価でそこそこ見栄えの良い服が手に入ります。
格安スマホの普及:スマートフォンも格安SIMを使えば持つことが可能で、情報格差が減っています。
SNSによる生活の「切り取り」:SNSでは華やかな面だけが共有されがちで、実際の困窮は隠される傾向にあります。
これにより、実際には貧しい状況にあっても、「普通に暮らしている」ように見えてしまい、社会全体で貧困の実態が把握しづらくなっています。
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4.生活保護以下の生活でも申請できない現状
日本には生活保護制度が整っていますが、実際に受給している人は国民全体の約2%以下です。
制度の存在や申請方法を知らなかったり、社会的な偏見や「恥ずかしい」という心理的ハードルから申請をためらう人が多いのです。
また、就職氷河期世代やひとり親家庭など、制度の網の目から漏れてしまう「制度の隙間層」が存在し、困窮状態に陥っているにもかかわらず支援に繋がらないケースもあります。
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5.親世代の経済的余裕が本人の貧困を見えにくくしている
近年注目されているのが、「親世代の資産や安定した収入による同居」が本人の貧困を隠す役割を果たしている点です。
● バブル期や高度経済成長期に得た資産
親世代は高度経済成長期やバブル期に比較的安定した収入と資産を得ていることが多く、持ち家や退職金などの資産を持っている場合があります。
そのため、本人が非正規雇用や低収入でも、親との同居により生活費や住居費の負担が軽減されるのです。
● 同居の実態と影響
家賃や光熱費、食費を親と分担できるため本人の負担が減る
家族の支援で最低限の生活が維持できる
そのため、本人の経済的困窮が外部から見えにくくなる
また、本人も家族に迷惑をかけまいと貧困を外に出しづらい
このような「世代間の助け合い」は一見良いことですが、社会全体で本人の貧困問題を把握しづらくする負の側面もあります。
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6.世代間格差と社会問題の根深さ
親世代は終身雇用や年功序列賃金などの安定した雇用環境に守られてきました。
しかし、現代の若い世代は非正規雇用の増加や低賃金での働き方が主流になり、経済的に不安定な生活を強いられています。
この世代間の経済的ギャップが、同居や家族内支援を生み出す一方で、貧困問題の「見えにくさ」を助長しているのです。
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7.なぜ「日本は貧しくなった」と言われるのか
日本ではここ数十年、実質賃金はほぼ横ばいか微減の一方で、物価は上昇し続けています。
これにより生活費の負担が増え、生活は厳しくなっているのです。
また、若い世代の経済的困難は結婚や子育ての意欲や可能性にも影響し、少子化や社会全体の閉塞感の原因にもなっています。
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8.まとめ
> 日本では絶対的な飢えは少ないものの、
「相対的貧困」や「見えない貧困」が広がっています。
さらに親世代の経済的余裕による同居が本人の貧困を覆い隠し、
貧困問題の実態が社会に見えにくくなっているのです。
この複雑な背景を理解し、社会全体で支援の必要性を共有することが求められます。
見えにくい貧困に目を向け、多様な支援策や政策を考えることが、これからの社会にとって大きな課題です。
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🔖参考文献・データ
厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」
NHKクローズアップ現代+「“見えない貧困”に苦しむ若者たち」
山田昌弘『「下流社会」の出現』(光文社新書)
阿部彩『子どもの貧困』(岩波新書)
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【コラム】日本は本当に貧しくなったのか?見えにくい「相対的貧困」と世代間同居が覆い隠す実態
