【コラム】「子持ち様」なんて言わせない。―感謝で済ませるな、制度を使える職場を作るのは誰の責任?―

先日Yahoo!ニュースに掲載された、NewsPicks +dの記事
「子育て社員は大事にされてるよね」…「子持ち様」への不満を解消するために実践した“荒療治”(取締役社長による寄稿)を読み、大きな違和感を覚えました。

記事では、「時短勤務で夕方に帰る子育て社員」に対して、「子持ち様」と陰口を叩く非子持ち社員の不満に対し、「子育て社員の側が“ありがとう”を繰り返し伝えることで、周囲の心が和らぎ、人間関係が円滑になる」という解決策が紹介されていました。
著者は、時短勤務の社員が非子持ち社員に“感謝”や“歩み寄り”を示すことで職場の雰囲気がよくなるとし、最終的に「みんなが働きやすくなる」と結論づけています。

一見、心温まるように見えるこの主張。でも、読めば読むほど、根本的な問題をすり替えていると感じざるを得ませんでした。



■本当の問題は「子持ち様」と言われる側にあるのか?

まず確認しておきたいのは、「子持ち様」という悪意のあるレッテル貼りの発端です。
時短勤務によって夕方に職場を離れる彼ら彼女らに対して、「自分たちの業務負担が増えている」という不満を、非子持ち社員が持ったことが発端です。

でも、それって本当に「子持ちのせい」でしょうか?



■不満の原因は、職場の仕組みの不備

もし、誰かが不在になると業務が回らないのなら、それは業務の属人化が進んでいる証拠です。
特定の人にしかできない仕事が多い、フォロー体制が整っていない、無駄な業務が削減されていない——

そうした構造的な問題を解決するのは、上司や職場の責任です。

・業務のマニュアル化
・進捗や情報共有の仕組み化
・必要に応じた外注やリスキリングの推進

こうした手を打たず、「人間関係の問題」として時短勤務者に「感謝しなさい」と促すのは、あまりにも安易で、問題の本質をすり替えていると感じます。



■感謝の強要は、制度を使いにくくする

もちろん、感謝を伝えること自体は悪いことではありません。
でも、制度を使うたびに「ありがとう」と“言わされる”風潮が強まれば、制度利用は「申し訳ないこと」「特別扱いされること」になってしまいます。

その空気のせいで、時短を取りづらくなる人、制度利用を我慢して体調やメンタルを壊す人が出るかもしれません。

制度とは、「誰でも、どんな事情でも、安心して使える」ものであるべきです。
それを、当事者の「感謝」と「歩み寄り」で乗り越えろというのは、制度利用の代償を、使う側に払わせているに等しいと私は感じました。



■企業にとって都合が悪い社員は排除したい?

この記事を書いたのは、ある企業の取締役社長です。

経営者の立場から見れば、社員が家庭に時間やエネルギーを割かず、仕事に100%コミットしてくれた方が都合がいいのかもしれません。

でもそれを正直に言ってしまえば非難を浴びるから、
「時短勤務によって人間関係が悪くなる」→「ならば制度を使う側が歩み寄るべき」というロジックにすり替えているように見えてしまいます。

上司や経営者がまず取り組むべきは、「誰が制度を使っても気兼ねなく働ける環境」をつくることではないでしょうか。



■最後に

誰もがライフステージを変えながら働く現代。
子育てや介護、病気治療など、さまざまな事情を抱えた社員が安心して働ける職場をつくるには、「感謝」ではなく仕組みが必要です。

働きやすさは、当事者がへりくだることで生まれるものではありません。
制度を当たり前に使える社会をつくるには、構造の変革と、上に立つ人の本気の覚悟が求められます。



出典:NewsPicks +d/Yahoo!ニュース
「子育て社員は大事にされてるよね」…「子持ち様」への不満を解消するために実践した“荒療治”
https://news.yahoo.co.jp/articles/1323ef15e192b163e56c5a628e49f2506d7d798e (※現在リンク切れ)



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