【コラム】「保育士でも詰む」育休退園制度の不条理

育休中に上の子を保育園から退園させなければならない。
いわゆる「育休退園制度」は、今も多くの家庭を追い詰めています。

その制度に対して、あるネット上の声が目を引きました。

「保育士さんは一度に何人も子どもを見られるのに、育休でたった2人の子どもが見られないのは甘えでは?」



一見もっともらしく聞こえるかもしれません。でも、この言葉には深刻な誤解が含まれています。




保育園と家庭、同じ「育児」でも条件が違いすぎる

まず知ってほしいのは、保育園での保育士さんは「一人で」すべてを担っているわけではないということです。

保育園には園長先生がいて、担任保育士がいて、サポートの保育士、事務員、調理員がいて、役割分担がきちんとなされています。
保育士さんは、決められた時間に決められた年齢の子どもを見ることに集中できるのです。

でも、家庭では違います。ワンオペ育児の場合、保育士・調理員・清掃員・看護師・カウンセラー・保護者の全ての役割を一人でこなさなければなりません。
保育園では役割分担されていた「全部」を、たった一人で担うのです。




子どもたちの「年齢」が違えば、やるべきことも全然違う

保育園のクラスは同年齢で構成されています。同じ発達段階、似た興味関心をもつ子どもたちなので、集団遊びや活動も成立しやすい。

でも、育休退園で家に残される子どもたちは、たいてい年齢も発達段階もばらばらです。

0歳児は昼夜問わず授乳・抱っこ・おむつ替え。
2歳児はイヤイヤ期まっさかり。
4歳児は社会性が育ちつつあり、お友達との関わりや外遊びを求める。
この「全然違う要求」を同時に一人で満たすのは、現実にはとても難しいのです。




そもそもこの制度、誰が作ったの?

ここで、ふと疑問がわきます。
この「育休退園制度」は、いったい誰が考えたのでしょうか?

現実には、こうした制度を決める立場にいるのは、多くが中高年男性。
彼らの多くは「一人で日中ずっと乳幼児の世話をした経験がほとんどない層」です。

もちろん、すべての男性がそうだとは言いません。でも、制度設計の場には、

ワンオペ育児の現場で苦しむ母親・父親

きょうだい育児のリアルを体験した当事者

子どもの年齢ごとに必要なケアを熟知した保育士や看護師


こうした実際に育てている人たちの視点が圧倒的に足りていないのです。




「育休=ヒマな時間」という誤解

育休を「長期休暇」か何かと勘違いしているような発想も見え隠れします。
実際には、育休とは「仕事を休んで、命を守る重労働に専念する期間」です。

一日中泣き止まない赤ちゃんと向き合いながら、同時に上の子のトイレや遊び相手をし、食事を作り、洗濯を回し、夜は何度も起きる。
これは、保育士でも詰むレベルの難易度です。




制度に必要なのは、リアルな「育児の視点」

私たちが本当に必要としているのは、「机上の理屈」ではなく、現場の声が届く制度設計です。

子どもを預けるかどうかの判断を、「親が家にいるかどうか」だけで機械的に決めていいのでしょうか?

その親が何人の子を、どんな状況で、どうやって見ているのか。
そこに目を向けずに制度だけを押しつけるのは、想像力の欠如であり、育児への軽視です。




育児は、孤独なマラソンです。
保育士ですら「詰む」環境で、なぜ一般の親だけがやり抜けると思われているのでしょうか。

この問いを、もっと広く共有していく必要があります。

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