【コラム】なぜ子どもにだけ扶養控除がないの?──子育て世帯にだけ冷たい税制の矛盾

「扶養控除」は、家族の生活を支えている人の税金を軽くするための制度です。
高齢の親や障害を持つ家族を扶養していれば、税金を少し少なくしてもらえます。とても大切な仕組みです。

しかし――
私たちが日々育てている「子ども」には、この控除が基本的にありません。

正確に言えば、かつては16歳未満の子どもにも「年少扶養控除」がありました。
しかし2012年の税制改正により廃止され、今では高校生以上の子ども(16歳以上)にしか扶養控除が適用されていません。

子どもは働けません。食べさせ、育て、教育する必要があります。
それなのに、働ける可能性のある大人の扶養には控除があり、子どもにはない。
これはあまりにも逆転した状況ではないでしょうか。




■「児童手当があるから」という理屈の限界

「扶養控除はなくなったけれど、代わりに児童手当を出しています」
――政府の説明はこうです。

確かに、2024年10月から児童手当の所得制限は撤廃され、支給対象も高校生まで拡大されました。
これにより、これまで児童手当を受け取れなかった世帯にも支援が届くようになったことは、前進といえるでしょう。

しかし、児童手当は一律で月1万円〜3万円(※年齢や子の人数によって変動)と決まっており、
扶養控除のように世帯年収に応じた「節税効果」はありません。

さらに、これまで16~18歳の子どもには扶養控除が適用されていましたが、
2024年度の税制改正により扶養控除額の縮小(所得税:38万円→25万円、住民税:33万円→12万円)が予定されています。

つまり、控除をなくして手当を拡充するという方向性ではありますが、税金の面では実質的に「負担増」となる家庭もあるのです。




■子育て世帯にとって、実質は「負担増」

「控除」も「手当」も、家計の支援であることに変わりはありません。
ところが扶養控除の廃止や縮小は、児童手当の支給額以上の増税効果を持つケースも少なくありません。

たとえば国税庁のモデルケースでは、年収700万円の家庭が扶養控除を失うと、年間約6〜10万円の増税になるとされています。
児童手当でカバーしきれない家庭も多く、子育て世帯の税負担は実質的に増えたと言わざるを得ません。




■なぜ大人の扶養は控除されるのに、子どもはダメなのか

政府は「高齢者は働けないから、扶養控除が必要」と説明します。
しかし、実際には昨今の物価高などを背景に、働く高齢者も増えています。

そして一方で、法律上、子どもは働くことができません。
それにもかかわらず、子どもに対する扶養控除は廃止され、高齢者には適用され続けているのです。

それなのに、政治的には「子育て支援の拡充」はなかなか進みません。
背景には以下のような要因があります。

・子どもには選挙権がない(→政治的に軽視されがち)

・高齢者は投票率が高く、政策の優先度が高い

・子育て支援は「バラマキ」として批判されやすい


結果として、税制面で子どもが最も冷遇されているという、皮肉な構図が生まれてしまっているのです。




■子育て支援は「コスト」ではなく「未来への投資」

少子化が進む今、子どもを育てることは社会全体の持続可能性に直結します。
税制度の中で、子どもを「扶養家族」として正当に扱うことは、社会の未来を支えるためにも当然の一歩です。

「なぜ子どもにだけ扶養控除がないのか?」
この問いは、私たち自身がこれからの社会のあり方を考える上で、とても大事な問題です。




【参考資料】

国税庁「所得税における扶養控除のしくみ」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1180.htm

総務省「児童手当制度」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/jidouteate.html

財務省「税制改正の概要(令和6年度)」
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2024/06taikou_09.htm

freee「扶養控除の廃止・縮小について」
https://www.freee.co.jp/kb/kb-payroll/dependent-exemptions-abolished/

Financial Field「児童手当の拡充と所得制限撤廃」
https://financial-field.com/living/entry-428474

山田&パートナーズ税理士法人「高校生世代の扶養控除見直し」
https://www.yamada-partners.jp/reform/r6/k02-review-of-dependent-deduction





#扶養控除 #年少扶養控除 #児童手当 #子育て支援 #税制改革 #高校生扶養控除 #少子化対策 #子育て世帯の負担 #税金の不公平 #政治と子ども #社会保障のゆがみ

タイトルとURLをコピーしました