【コラム】「養育費2万円」で本当に足りるのか? ― 『育児手間費用』という視点

法務省が「法定養育費」として子ども1人あたり月2万円を一律に定める省令案を示し、現在パブリックコメントを募集しています。
「無いよりはまし」という意見もありますが、実際に子どもを育てている立場からすると、この金額が現実に見合っていないことは明らかです。

■養育費の限界

養育費はあくまでも「子どもの生活費」を想定しています。衣食住、教育、医療などに充てられるお金です。
しかし、子育てはお金だけではありません。毎日の食事作り、洗濯、送り迎え、宿題を見る、体調を崩したときの看病…。
これらの時間的・肉体的・精神的な負担は、養育費の算定には含まれていません。

例えるなら、総体として「100」の負担があるのに、法定養育費で軽減されるのは「2」にすぎません。この制度だけで子育ての公平性が担保されるとは到底言い難いのです。

■「親権を父親に渡せばよい」という意見への疑問

制度議論の中には「母親が大変なら、親権を父親に渡せばいい」という声も見られます。
しかし、この発想は子育ての実態を十分に理解していないと言わざるを得ません。

例えば父親がフルタイムで働きながら一人で育てると仮定すると、

・帰宅後すぐに子どもの食事、洗濯、片付け

・入浴や寝かしつけを終えるころには倒れるように就寝

・翌朝もまた同じルーティン

・休日も子どもが家にいるため「休養」はほぼ不可能

・一人で飲みに行く、趣味に出かけるといった自由時間は消失

・子どもが発熱すれば必ず自分が職場を休まざるを得ず、職場での立場も危うくなる


こうした現実は、父親であれ母親であれ「育てる側」になった人すべてに降りかかります。

一方で、子どもを育てない側は数万円の養育費を払えば「義務を果たした」とされ、事実上独身のような自由を取り戻せてしまいます。さらに再婚や新しい子どもの誕生を理由に、養育費の減額を求めることさえあります。

この落差を放置したままでよいのでしょうか。

■必要なのは「育児手間費用」の制度化

本当に必要なのは、養育費だけでなく「育児手間費用」の制度化です。
これは、親権を持ち実際に子どもを育てている親が背負う時間的・精神的・収入面の制約に対して、もう一方の親が一定の補償を行う仕組みです。

国際的に見ると、ドイツでは養育費の未払いに対して国が立て替え制度を持ち、シングル親の生活保障に一定の配慮があります。日本でも「子どもを育てる側が極端に不利になる」現状を是正する制度が求められます。

■おわりに

「法定養育費2万円」は一歩前進かもしれません。しかし、それだけでは子育ての現実に追いつかず、育てる側の不公平感は解消されません。
子どもの権利を守ると同時に、育てる親の生活を守ることも社会として必要です。今こそ「育児手間費用」のような新しい発想を制度に組み込むべきではないでしょうか。




参考文献

毎日新聞「法定養育費 月2万円案 法務省が省令案」2025年8月30日

テレ朝news「法務省『法定養育費』意見募集開始」2025年9月

note「法定養育費の省令案まとめ」2025年8月






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