【構造から考えるシリーズ】日本のシングルマザー貧困は「努力不足」ではなく「制度不備」の問題

日本のシングルマザーの貧困について語る際、「自己責任」「努力不足」「学生時代から高賃金の職業に就くための努力をしてこなかったからだ」といった声がよく見られます。しかし、この見方は現実を正しく反映していません。むしろ日本は、国際比較をすると「働いているのに貧困」が突出して多い国であり、そこにこそ問題の本質があります。



■日本人は努力不足どころか「努力の民族」

まず大前提として、日本人は世界的に見ても勤勉な国民性を持っています。資源に乏しい島国である日本は、人材こそが最大の資源でした。そのため、一人ひとりの努力と几帳面な労働文化が国を支えてきました。

・1分も遅れない鉄道運行

・長時間労働や責任感の強さ

・高い教育水準と進学率

これらは、日本人がむしろ「努力しすぎる」民族であることを物語っています。したがって「シングルマザーの貧困は努力不足のせい」という議論は、歴史的にも文化的にも根拠が薄いのです。




■日本だけ突出して「働いているのに貧困」

OECDのデータによれば、日本のひとり親世帯の相対的貧困率は 約50% に達しています。これは加盟国の中でも最悪水準です。しかも特徴的なのは、貧困に陥っているひとり親世帯の多くが「就労している」にもかかわらず貧困であるという点です。

他国では「働けば生活が改善する」のに、日本ではそうならない。これこそが日本特有の問題です。




■なぜ日本のシングルマザーは貧困に陥るのか

1. 保育の受け皿不足
フルタイム正社員を希望しても、保育園の空きがなければ働けません。特に待機児童問題や病児保育の不足は大きな壁です。


2. 非正規雇用の偏り
シングルマザーの多くは、時間の融通が利くパートやアルバイトに就かざるを得ません。結果的に正規雇用率は低く、安定した収入を得にくい状況です。


3. 養育費不払い問題
日本では養育費の取り決め自体が低率であり、取り決めがあっても実際に支払われ続ける割合は2割程度。国が強制徴収や立替払いを行う欧米諸国と比べ、大きく遅れています。


4. 社会保障の脆弱さ
児童扶養手当はあるものの、額は低く生活を大きく支える水準にはありません。結果として、就労+児童扶養手当でも貧困ラインを下回る世帯が多いのです。






■「私はできたからあなたもできる」は危険な論理

中には「私は努力して高賃金の仕事に就け、シングルマザーでもやっていけている。だからできないのは努力不足だ」という意見もあります。しかし、これは典型的な サバイバーズ・バイアス です。

・子どもに障害や病気がある家庭

・実家の支援がない家庭

・地方で雇用機会や保育施設が限られている家庭

環境の違いによって「同じ努力」が全く異なる結果につながります。統計的に半数近くが貧困に陥っている事実を前に、「努力不足」で片付けるのは誤りです。




まとめ

日本のシングルマザーの貧困は、決して努力不足ではありません。日本人は世界でも有数の努力家の民族であり、それでも突出して貧困が生じているのは、社会制度と構造の問題です。養育費の履行確保、保育の拡充、非正規雇用の是正、社会保障の強化といった政策が不可欠です。




参考文献

OECD (2023) Measuring Progress Towards Inclusive and Sustainable Growth in Japan

Nippon.com「The Two-Tier Wage Structure Holding Single-Parent Families Back」

BPW Japan (2024) CSW68 報告書






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