【コラム】家族の中の見えにくい理不尽
/泣いた子が得をする?「我慢できる子」が損をしないために

子どもたちが兄弟喧嘩をしたときの出来事から、ふと気づいたことがあります。

ある日、パンが一つだけ残っていて、兄と妹が「ほしい」と言い合いになりました。
私は「じゃあ半分こね」と言いましたが、妹がそれを嫌がって袋を抱えてしまいました。
お兄ちゃんは「僕も半分ほしい」と穏やかに伝えましたが、妹は離しません。
最終的に、兄は我慢しきれず無理やり取り返してしまい、妹は大泣き。
その泣き声で赤ちゃんが起きてしまい、「ほら!こうなるじゃない」と、兄が叱られそうになりました。

でも、よく考えてみると、お兄ちゃんは間違っていません。
本来、パンを半分こするという提案は公平であり、拒否して独占しようとしたのは妹の方でした。
赤ちゃんが起きることを避けたいというのは親の都合であって、兄にだけ我慢を求めるのはおかしいのです。

私が「兄くんは悪くないよね」と言うと、彼は「そう!それ!」と強くうなずきました。
この瞬間、私ははっとしました。




■自分の子ども時代を思い出して

実は私自身も、弟二人の姉として育ち、同じような理不尽さを感じてきました。

あるとき、私のために買ってもらったケーキがありました。
でも弟が泣き止まなかったため、親に「譲ってあげなさい」と言われ、私は「嫌だ」と主張しました。
けれど、最終的には取り上げられてしまいました。

確かに、弟はケーキをもらえば泣き止んだかもしれません。
でも、それは親が自分のものを差し出すならまだしも、「姉だから」といって私のものを奪うのは違います。

この体験から、私は強く思うようになりました。
兄や姉を“親のように”扱い、我慢を当然とするのは間違っていると。




■泣いたら主張が通るという「誤学習」

さらにもう一つ、幼少期から私が疑問に思っていたことがあります。

それは、「泣いた方が得をする」という構図です。

兄弟喧嘩をしたとき、私が泣いても誰も味方してくれませんでしたが、弟が泣くと親は弟の肩を持ち、「泣かせた方が悪い」と私が叱られました。

でも、そんなふうにして育った子が、将来、同年代の友達とぶつかったときどうなるのでしょうか?

泣けば誰かが代弁してくれた経験しかなければ、相手と自分で問題を解決する力が育ちません。
感情を「主張の武器」として使うことを覚えてしまうのは、その子自身の成長の機会を奪うことになりかねません。




■日本社会に染みついた「泣く=迷惑」文化

日本では、泣く子どもがいると「周囲に迷惑をかけてはいけない」という意識から、
とにかく泣き止ませることが最優先されがちです。
その場で我慢できそうな上の子に譲歩させることで、手早く事態を収めようとする。
でもそれは、感情の扱い方をゆがめる教育でもあります。

泣いている子の気持ちに寄り添うのは大事です。
でも、「泣いているから優先」「泣かせたから悪い」と決めつけてしまえば、
静かに怒っている子、黙って我慢している子の気持ちは見えなくなります。




■感情の強さではなく、正しさで向き合うために

子ども同士の衝突では、泣いているかどうかではなく、その前に何があったのかを丁寧に聞き取ることが必要です。

泣くこと自体を責める必要はありません。
でも、泣いたからといって主張が自動的に通る構造には、立ち止まって考え直す必要があります。

例えばこんなふうに伝えてみるとよいかもしれません。

「泣いているってことは、それだけ嫌だったんだね。でも、どうして嫌だったのか、ちゃんと聞かせて」
「泣いてる子がいても、それだけで誰かを悪く決めるわけじゃないよ。お話を順番に聞いて、どうしたいか考えよう」




■私たち大人ができること

大人の都合や場の空気を優先して、いつも「我慢できる方」に負担をかけていたら、
静かな子、頑張っている子、年上の子が報われなくなります。

子どもたちに本当に伝えるべきことは、
「声の大きさ」や「泣き方の激しさ」で主張が通るのではなく、
「言葉で伝える」「相手の気持ちも考える」ことで、対等に解決していく力です。

私たち親が、子どもたちのやりとりをじっくり聞き、偏らない視点で向き合うこと。
その積み重ねが、きっと健やかな関係性を育てていくのだと信じています。




参考文献・資料

無藤隆(2013)『子どもの発達と保育』ミネルヴァ書房

鈴木みゆき(2021)『きょうだい関係と子どもの発達』かもがわ出版

渡辺弥生(2019)『感情の育て方』ちくま新書

内田良(2020)『「やさしさ」の行方――支援・感情・教育の現場から』岩波書店




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