【構造から考えるシリーズ】なぜ子連れは“いつも悪者”にされるのか?

──公共の場で繰り返される「子連れ叩き」の深層構造

最近、子どもを連れて新幹線に乗った方が、周囲の大人グループによる騒音に困ってしまったというエピソードが話題になりました。
この方は、子どもが周囲に迷惑をかけないよう最大限配慮し、静かな車両を選び、準備を整えて乗車したといいます。ところが、同じ車両に乗っていた大人数の大人グループが宴会を始めてしまったのです。

本来であれば、「宴会は居酒屋でやってほしい」「公共交通機関で大声を出すのは迷惑」という話になるはずでした。
ところがSNSでは、「それが嫌なら子連れは車で移動しろ」「車も持てないのに子どもを産むな」という声が多数寄せられました。

これは明らかにおかしな構図です。
迷惑をかけたのは大人のグループなのに、なぜか“子連れ”のほうが叩かれている。
こうした“すり替え”が起きる背景には、どのような社会構造や心理的メカニズムがあるのでしょうか。




◆「サラリーマンの混雑」には文句を言わないのに?

似たような話で、ベビーカーでディズニーに向かう家族連れが多くて電車が混雑していたことに苛立ったという人が、
「車も持てない人は子どもを産むべきではない」とSNSで発言していたケースもありました。

でも、満員電車の混雑が通勤ラッシュによるものであれば、
「サラリーマンが車で移動しろ」などとは言われません。

“混雑”という現象は同じでも、対象が子連れになると、なぜか「存在自体が迷惑」と言わんばかりの批判にすり替わるのです。

このダブルスタンダードは偶然ではなく、構造的な偏見の現れです。




◆なぜ「子連れ」がいつも矛先にされるのか?

こうした現象の背後にあるのは、“家族を持てなかった人の疎外感”と“社会的階層の意識”だと考えています。

現代の日本社会では、恋愛・結婚・出産・子育てといったライフイベントは、
「自助努力で勝ち取るもの」という価値観が浸透しています。
そのため、それらを“持てなかった”ことに対して、無意識のうちに「自分は劣っているのではないか」「排除されたのではないか」という感覚を持つ方も少なくありません。

その感情が、「社会は子連れに甘い」「自分には冷たい」という相対的剥奪感(relative deprivation)に変わり、
やがて「だから子連れを攻撃してもいい」という方向にすり替わっていくのです。




◆差別されたと感じた人が、今度は差別する側になる

これは決して珍しい現象ではありません。

自分が「報われなかった」と感じる人が、その怒りの矛先を社会的に“守られているように見える存在”に向ける。
それが、ネット上で子連れや育児世帯に向けて強い言葉を浴びせる一因になっています。

「子どもが泣いても許されるのは子連れだけ」

「育休が取れるのは家庭持ちだけ」

「税金で保育園?独身にはメリットない」


──こういった言葉の裏には、「自分だけが損をしている」という思いと、それを埋め合わせたいという衝動があります。

でもそれは、「自分が傷ついたから、他人を傷つけてもいい」という理屈にはなりません。




◆「子連れにだって、人権がある」──当たり前のことを忘れていませんか?

子どもを連れて社会の中で生きることは、決して“楽な道”ではありません。
むしろ、人一倍の準備や気遣い、周囲への配慮が求められます。
それでも、子どもを育てる親たちは懸命にやっています。文句を言いながら、泣く子をあやしながら、他人の目を気にしながら、それでも社会に出てきています。

子連れは「甘えた存在」でも「特権階級」でもなく、あなたと同じように感情があり、意見を持ち、公共空間に存在する権利を持つ人間です。

それを無視して、「子連れは黙ってろ」「気に入らないなら外に出るな」という発言をする人は、子連れの人権を踏みにじっていることに気づいていないか、あるいは見ないようにしているのかもしれません。




◆結論:「子連れ=悪」という構図は、社会の歪みの写し鏡

このようなバッシングの背景には、家庭を持てなかったことへの悔しさ、社会から疎外された感覚、そして自由競争に“敗れた”という無言の評価に対する怒りがあります。
けれど、その怒りが「子どもを持つことができた誰か」に向けられるとき、構造は入れ替わります。

それは「自分が差別されたから、差別し返す」という報復であり、社会全体の分断を深めることになります。

子育てをしている人も、していない人も。
家庭を持った人も、持たなかった人も。
誰もが同じ社会を生きる人間であるという当たり前の視点を、私たちは今こそ取り戻すべきではないでしょうか。





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