【コラム】なぜ養育費は“逃げ得”なのか?制度の甘さと親権者に偏る負担の不平等を徹底解説

日本では、離婚後の養育費不払いが深刻な社会問題となっています。制度としては存在していても、実際には「逃げ得」がまかり通り、親権を持った側ばかりが精神的・経済的・肉体的に追い詰められる構造があります。




■養育費は子どものための費用のはずなのに

養育費とは、本来「親としての義務」であり、子どもの生活や教育を保障するための大切な資金です。それにもかかわらず、日本では養育費の支払いが滞っているケースが非常に多いのが現実です。

厚生労働省の全国母子世帯等調査(2021年)によると、養育費の取り決めをしている世帯は約4割。その中で、実際に養育費を受け取っているのは全体のわずか24.3%にすぎません。




1. 養育費の金額が生活に見合っていない

日本の家庭裁判所が基準とする「養育費算定表」は、親の収入や子どもの年齢に応じて定められた金額であり、裁判や調停ではこれに基づいて養育費が決められることが多くあります。

しかし、この算定表で決定される金額は、現実の子育てにかかる費用と比べると明らかに不十分です。

例えば、小学生の子ども1人を育てる場合、文部科学省の調査では年間の教育費だけでも公立で約32万円、私立なら約159万円かかるとされています。これに加えて、食費、衣類、医療費、住居費などを含めると、1カ月あたりに必要な子ども1人分の生活費は最低でも7万〜10万円程度が必要と言われています。

それに対して、実際に支払われている養育費の平均額は月2〜4万円程度にとどまり、とても十分とは言えません。




2. 養育費は“逃げた者勝ち”の構造になっている

さらに大きな問題は、養育費の支払いを逃れる手段が多すぎることです。

・転職して給与差押えを回避する
・住民票を移さず住所不明とする
・銀行口座を変更し差押えの対象から逃れる

※「住民票を移さず住所不明」とは?

たとえば、支払い義務のある親が実際には引っ越して新しい場所に住んでいるのに、役所に転居届を出さず、住民票上の住所を旧住所のまま放置しているケースがあります。

この状態だと、書類の送達や差押え手続きの通知が届かず、裁判や調停が進められない場合があります。また、どこに住んでいるか分からなければ、勤務先や口座の調査すらできず、支払い請求が事実上不可能になります。

住民基本台帳法では転居の届け出は義務ですが、実際には罰則が軽く、違反しても見逃されがちです。これが“逃げ得”の一因となっているのです。




3. 当事者任せでは限界がある

「調停すれば?」「裁判すれば?」という声はありますが、それを実行できるのは、ある程度の時間的・精神的・経済的余裕がある人だけです。

現実には、シングルマザーやシングルファザーが、育児に追われ、仕事にも追われる中で、さらに法的手続きを進めるだけの体力が残っていないというのが実情です。

つまり、制度があってもそれを利用できない人が多く、機能していないに等しい状態になっているのです。




4. 税金は追うのに養育費は追わない日本社会

税金を滞納すれば、市区町村や税務署は徹底的に差押えを行い、財産や給与を回収します。ところが、養育費に関してはそうした公的徴収の仕組みがありません。

これは「養育費=個人間の取り決め」という建前に基づくものであり、実際には“子どもの生活を支えるためのお金”であるにもかかわらず、国家が積極的に関与しない仕組みになっています。

子どもを育てることは社会の未来への投資であり、国家が放置すべきではありません。税金のように公的機関が徴収し、子どもと暮らす側に確実に給付する仕組みが必要です。




5. 親権を持つ側だけが抱える圧倒的な不公平

親権を持たなかった側は、養育費の支払い義務さえ逃れれば、実質的に独身と同じような生活に戻ることができます。転職や引越し、再婚なども比較的自由にでき、社会的なプレッシャーも少ないのが実情です。

一方で、親権を持つ側は:

・子どもの生活全般をすべて担う

・育児と仕事を一人で両立しなければならない

・経済的にも時間的にも追いつめられやすい

・子どもがいることを理由に再婚も難しくなる

・社会的偏見にもさらされる


このように、圧倒的な負担を一方的に押しつけられているにもかかわらず、制度的支援が不十分なのが現実です。




■まとめ

子どもを育てるのは親の義務であると同時に、社会全体の責任です。

「個人間の問題だから」「取り決めしなかった方が悪い」といった無責任な言説ではなく、税金と同じように公的に徴収・給付する制度の整備が必要です。

逃げ得が許されない社会、そして親権者が一人で苦しむことのない社会。そうした制度と意識の改革を、今こそ真剣に考えるべき時です。



#養育費不払い
#シングルマザーの現実
#逃げ得を許さない社会に
#親権と負担の不公平
#子どもの権利を守る
#養育費徴収強化を
#家庭と制度のズレ
#育児と仕事の両立
#ジェンダー格差
#法制度の見直し
#社会保障のあり方

タイトルとURLをコピーしました