ニュースで、ある首相が「育休中に資格を取るなど、キャリア形成に努めてほしい」と発言したのを目にしたとき、思わず「は?」と声が出ました。
育休って“休み”だと思われているのでしょうか?
育児休業中の親たちは、キャリアどころか毎日が命がけです。
授乳やミルク、夜泣き、離乳食、ワンオペお風呂、寝かしつけ…。24時間休みなしで、1人の命と向き合っているのです。
それなのに「キャリアも頑張れ」とプレッシャーをかける社会って、あまりに酷ではないでしょうか。
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■キャリアを追っている人には子育てを求めないのに、子育てしている人にはキャリアを求める不公平
例えば、企業の管理職や政治家など、明らかにキャリアを最優先している層に「育児もきちんと分担してください」とはなかなか言われません。むしろ「子育てしてないくらい仕事に集中してる」と評価される場面さえあります。
ところが、逆の立場――子育てをしている人に対しては、「育児だけしててもダメ」「資格を取って将来に備えないと」「キャリアも努力して当然」など、なぜか追加で“社会的価値”を求められます。
これは明らかなダブルスタンダードです。
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■子育ては片手間でできるものではありません
そもそも、乳幼児の育児は心身ともに大きなエネルギーを要する、立派な労働です。
赤ちゃんは指示通りに動いてくれませんし、体調の急変にも即座に対応しなければなりません。睡眠不足でぼんやりした頭で、間違いが許されない育児をこなしている親たちが、世の中にはたくさんいます。
育休中に資格を取ること自体を否定するつもりはありません。余裕がある方がそうするのは自由です。
でも、それを「当然」「推奨」されるべきモデルケースにするのは違うと思うのです。
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■子育てが“キャリアの妨げ”になる社会構造を疑ってほしい
「育児でキャリアが途切れるのは自己責任」
「子どもを産んでも働き続けられるように、努力して当然」
そういった空気のなかで、どれだけ多くの親が、自分の選択を責められ、孤立してきたでしょうか。
本来なら「子どもを育てている」だけで、社会から最大級に評価されるべき時期なのに。
子育ては、将来社会を支える「人」を育てるという、極めて重要な社会的役割です。
それを“キャリアに穴があいた”としか評価できない社会のあり方自体を、もっと疑っていいと思います。
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【参考文献・データ】
厚生労働省「育児休業制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000122567.html
OECD(2022)「日本のワーク・ライフ・バランスは先進国の中でも下位」
https://www.oecd.org/japan/
橋本健二(2021)『ケア労働を考える』ちくま新書
林美子(2022)『子育ては仕事です!』岩波ジュニア新書
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【コラム】「育休中に資格を取れ」は誰のため? 子育てはキャリア形成の隙間時間じゃない
