◆はじめに
2024年、京都市内の公立小学校で起きた、男子児童が暴力を受け難聴となり転校を余儀なくされた事件。
その深刻さにもかかわらず、学校は当初「重大事態ではない」と判断し、いじめ防止対策推進法に基づく調査が行われませんでした。
これは一体、誰を守るための法律なのか——。
事件の経緯とその背景、そしてこの出来事が示している制度の矛盾について掘り下げてみます。
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◆事件の概要
・被害児童は当時小学4年生
・同級生から「ハサミを投げつけられる」「首を絞められる」などの暴力を繰り返し受ける
・2024年11月、右耳付近を3発殴られ、「外傷性の感音難聴」と診断
・強い耳鳴りや精神的ショックで12月から不登校に
・2025年4月、元の学校に通えなくなり転校
・保護者は学校に調査を求めたが、「証拠がない」として重大事態には認定されず
その後、加害児童が「首を絞めた」事実を認めたため、ようやく学校側が「重大事態」に認定。
市教育委員会は第三者委員会を設置し、「できるだけ早く調査する」とコメントしています。
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◆「重大事態」の定義とは?
いじめ防止対策推進法では、「重大事態」とは以下のようなケースを指します。
・児童が自殺を図った、または重大な精神的苦痛を受けたと疑われる場合
・児童が身体的な被害を受けたと疑われる場合
・不登校が30日以上続いた場合 など
つまり、身体に障害が残るレベルの暴力+不登校+転校という三重の被害を受けた今回の事案は、明らかに「重大事態」に該当するはずです。
にもかかわらず、学校は加害児童の主張を優先し、「証拠がない」「いじめではない」として訴えを退けました。
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◆証拠がないからいじめじゃない? あり得ない学校対応
被害児童の母親は、学校とのやりとりについてこう語っています。
「(学校側には)証拠がないだろうと言われました。他の児童も傷つくだろうから、『そういうことは言いたくない』と。証明できない可能性も高いから、いじめではないと」
これは到底受け入れられる説明ではありません。
まず、学校で起きたことを子どもが証明できるはずがありません。
証拠を集めるには、例えばボイスレコーダーを持たせる必要がありますが、それを思いつく頃にはもうすでに被害が発生しており、次の被害を防ぐ段階に来ているのです。
つまり、証拠を求めること自体が、後手の対応であり、被害者にさらに負担を強いる行為です。
さらに、「他の児童が傷つくから対処できません」という理屈も非常に問題です。
目の前にすでに傷ついた児童がいるにもかかわらず、他の児童への影響を理由に問題に蓋をするというのは、本末転倒です。
この児童が傷ついていることはどうでもいいのでしょうか?
そんなことを言われたら、不信感しか生まれません。
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◆なぜ隠すのか? 学校の“評価”が生む歪み
このような事案で学校がいじめの存在を認めたがらない背景には、学校や管理職の「評価システム」が関係しています。
・「いじめがあった」と認定すると、学校の管理責任が問われる
・保護者や地域の印象が悪くなる可能性がある
・重大事態に認定すると外部調査や報告義務が発生し、負担が増える
つまり、「いじめを発見・対応することがマイナス評価になる」という制度の歪みが、学校をして「隠蔽体質」へと追いやっているのです。
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◆制度を変えるべきでは?
現行制度の限界は明らかです。
いじめ防止対策推進法では、**「学校が重大事態と認定しなければ調査が始まらない」**という構造になっています。
しかし、今回のように学校自体が関与や対応を拒む場合、被害児童を救うルートが絶たれてしまうのです。
そもそも、いじめがあったことを隠すのではなく、いじめを発見して対応したことをプラス評価に変える制度が必要ではないでしょうか。
そうすれば、
・学校は隠す必要がなくなり
・被害児童は守られ
・教員も過剰な責任回避に走らなくて済む
という本来あるべき姿に近づくはずです。
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◆おわりに 〜「誰のための学校か」を問う〜
今回の事件では、「暴力で難聴」「不登校」「転校」といった、明らかに深刻ないじめ被害が発生していたにもかかわらず、学校は「証拠がない」として調査を拒みました。
本来、学校は子どもを守る場であるはずです。
しかし現実には、「学校の評価を守るために子どもが犠牲になる」という構造が存在しています。
この構造を変えなければ、同じような事件はまた繰り返されるでしょう。
制度、意識、対応、すべてにおいて「加害者保護」ではなく「被害者救済」を軸にした改革が求められています。
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◆参考資料・報道
関西テレビ(FNNプライムオンライン)
https://www.fnn.jp/articles/-/897149
Yahoo!ニュース(2025年7月掲載)
https://news.yahoo.co.jp/articles/d6be42c37f14c7ae65f56d494e08976071a0f76d
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