【ニュース/コラム】小さな子どもがいる家庭と「お詫びの菓子折り」——日本社会の現状

最近、ニュースやネット記事で話題になっているのは、5歳・3歳・0歳の子どもを持つ家庭が、下の階の方から「足音がうるさい」と言われてしまったケースです。学校の先生は「そのままで大丈夫」と言ったものの、親としては「迷惑をかけてしまったのでは」と不安になります。

ファイナンシャルフィールドなどでは、このような場合に3,000円~10,000円程度の菓子折りを持参して謝ることがマナーとして紹介されています。のし紙や渡し方まで詳しく説明されていますが、ここに大きな違和感があります。なぜまず謝ることが前提で、子育て家庭が悪者扱いされるのでしょうか。子育てしていない大人は何も我慢せず、歩み寄らずに「静かにすること」を要求するだけ、という一方通行の構図がそこにはあります。




■躾で何でも解決できるという幻想

日本では、「親の躾がなっていない」という言葉が簡単に使われます。しかし、子どもの行動をすべて躾でコントロールできるわけではありません。脳科学の観点からも、幼児期の子どもはまだ前頭前野が十分に発達していません。前頭前野は感情の抑制や衝動のコントロール、先を見通す判断などを担う部分で、10歳前後から徐々に成熟し、20歳前後で大人と同等になります(Diamond, 2002)。

つまり、5歳や3歳の子どもに「静かにしなさい」「走らないで」と言っても、長時間我慢すること自体が構造上難しいのです。0歳の赤ちゃんに静かさを求めることはそもそも不可能です。それを「躾不足」と責めるのは、発達実態を無視した社会的誤解です。




■子育て経験者が減り、共感が失われている

総務省の統計では、未婚率が上昇し、子どもに日常的に接する機会のない大人が増えています(総務省統計局『国勢調査』2020年)。その結果、子どもの泣き声や遊び声、足音に慣れていない人が多くなり、「静かな環境が当たり前」と考える大人が増えました。こうした社会では、子どもの自然な行動が“異物”のように扱われ、親だけが謝罪を求められる構図が生まれます。




■受忍限度論と子育て世帯の負担

もちろん、騒音に悩む人の気持ちも理解できます。しかし、ここで重要なのはどちらが本当に我慢すべきかです。社会全体で「迷惑をかけないこと」を求める風潮は、幼児期の発達実態を考慮せず、親にのみ負担を押し付けています。前頭前野が未発達な子どもに静かにすることを求めるのは非現実的で、親だけが謝る構図は不公平です。




■社会全体で子どもを受け止める必要性

少子化の時代、子どもは社会の未来を支える存在です。それなのに「子どもの声を迷惑と感じる社会」は、未来を否定しているとも言えます。子育て世帯だけが肩身の狭い思いをするのではなく、「みんなで育てる」という意識を社会全体で共有することが必要です。

ニュースで紹介された「お詫びの菓子折り」やマナーは参考にはなりますが、まず謝ることが前提という価値観自体を見直す必要があります。子育て世帯の負担を減らすには、社会全体が子どもに理解を示すこと、そして共感と歩み寄りの文化を育むことが不可欠です。




参考文献

Diamond, A. (2002). Normal development of prefrontal cortex from birth to young adulthood: Cognitive functions, anatomy, and biochemistry. In D. T. Stuss & R. T. Knight (Eds.), Principles of frontal lobe function (pp. 466–503). Oxford University Press.

総務省統計局『令和2年国勢調査』結果(2020年)

ファイナンシャルフィールド「子どもが足音うるさいと言われたら?お詫びの菓子折りの金額と渡し方」 (Yahooニュース)





#子育て #三人兄弟 #四面楚歌 #社会構造 #謝罪文化 #騒音トラブル #子育て世帯 #受忍限度 #親の孤立 #躾の幻想 #前頭前野 #共感社会 #育児世代の声

タイトルとURLをコピーしました