【コラム】母親が赤ちゃんに熱湯をかけた虐待の背景とは?「逃げ場のない育児」から見える虐待の構造と支援策

2025年7月、山形県で起きた痛ましい事件に対し、山形地裁は28歳の母親に有罪判決を言い渡しました。
この母親は、生後3か月の赤ちゃんに90度の熱湯をかけ、全治1か月のやけどを負わせたとして傷害罪に問われていました。
判決では、「放置すれば死亡する可能性もあった」と指摘されています。

こうした行為は、決して許されるものではありません。
その一方で、なぜこのような虐待が起きてしまうのかを「構造的」に見つめ直すことが、再発防止につながるのではないでしょうか。




■ 育児とストレス反応――逃げられないとき、人は「戦う」反応に

人間は強いストレスを感じたとき、「逃げる(Flight)」「戦う(Fight)」「固まる(Freeze)」という順番で本能的に反応するという理論があります(※1)。
では、育児――特にワンオペで、赤ちゃんが泣きやまない、おむつ替えで暴れるといった場面はどうでしょうか。

親である自分は、その場から「逃げる」ことができません。
誰にも頼れず、休めず、泣き声は止まず、自分はすでに心身ともに限界。
すると「逃げる」が不可能な状況で、次に出てくるのは「戦う」という反応です。

それが怒鳴る、物に当たる、さらには暴力的な行動として出てしまう。
もちろん、どんな理由があっても虐待は絶対に許されるものではありません。
しかし、そこに至る「構造」を理解しなければ、再発は止められないのではないかと感じます。



■ 赤ちゃんの泣き声は、終わらないストレスになることがある

たとえば、電車で赤ちゃんが泣いていてイライラしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
でもそのときは「相手が降りる」「自分が降りる」「いずれ目的地に着く」などの“終わり”があります。

しかし親としてその赤ちゃんと24時間365日過ごすとき、「終わりのないストレス」にさらされ続けるのです。
頼れる人がいない環境では、なおさら逃げ場がありません。




■ 個人を責めるだけでは、再発は防げない

行為そのものは重大で、厳正に裁かれるべきです。
しかし同時に、「こうなる前に防げたのでは」という視点も必要です。

虐待を未然に防ぐには、「逃げてもいい」「一時的に子どもを預けてもいい」という逃げ道を作っておくことが社会的に必要だと感じます。




🔸 今すぐ使える育児支援制度 ―「逃げ場」はあります

① 子育て短期支援事業(ショートステイ・トワイライトステイ)

内容:保護者が育児疲れや病気、精神的な限界などで養育が困難なときに、児童養護施設や里親宅などで子どもを一時的に預かってくれる制度です。

対象:原則0~18歳未満

費用:自治体により異なりますが、生活困窮世帯などには無料措置もあります。

窓口:各市町村の子育て支援課・児童相談所



② 一時預かり事業(保育所型・ファミサポ型)

内容:数時間~1日単位で、保育園や認定施設が子どもを預かってくれる制度です。

利用目的:通院・出張・育児疲れ・リフレッシュなど

対象:生後6か月頃~未就学児(自治体により異なる)

申込方法:事前登録制が多いので、まずは市町村に相談を。




③ 育児の悩みを話せる窓口

子ども家庭支援センター(全国)

児童相談所相談専用ダイヤル:📞189(いちはやく)

各市町村の子育て相談窓口

地域の子育て支援センター・保健センター


「ただ話を聞いてほしい」「もう限界かもしれない」と思ったときこそ、ぜひ一度アクセスしてみてください。
助けを求めることは、弱さではなく“勇気”です。



■ 参考文献・出典

※1:「Fight or Flight」理論|アメリカ心理学会
 https://dictionary.apa.org/fight-or-flight-response

※2:「母親が生後3か月の子に熱湯かける 懲役1年6月執行猶予付き有罪判決」
(テレビユー山形/Yahoo!ニュース)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/c5b001ffe461a85f0ce46e57b04ee0b7a05d3e72

※3:厚生労働省・子ども家庭庁 子育て支援資料



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