【コラム】政府が進める女性トイレ行列対策、それに反発する声は本当に妥当なのか?

2025年7月、政府は女性トイレの行列問題を解消するための対策を打ち出しました。
内閣府が主導する会議で、大規模イベントの主催者に対して女性用仮設トイレの増設や、男性用トイレの一時的な転用などを促す緊急通知が発出されたのです。

この取り組みは、岸田首相の指示に基づくものであり、トイレ利用におけるジェンダー格差を是正する目的があります。
長年、女性のトイレ待機時間の長さが問題視されてきたことに対して、ようやく政府が動き出した形です。

ところが、この動きに対して一部からは次のような声が上がりました。

「男のトイレだって大便器は並ぶのに、なんで女ばっかり優遇されるの?」
「今の日本の女は楽ばかりしていて、さらに支援するのはおかしい」


一見すると公平を求めているようにも見えますが、この意見には思い込みと誤解が多く含まれており、事実に基づいて冷静に考えると多くの点でおかしな主張であることがわかります。




■女性用トイレの行列は構造的な問題

まず、女性トイレの行列は単なる「使う人の多さ」や「わがまま」ではありません。
服装の構造、生理現象、子どもの付き添いなど、トイレの使用に時間がかかる理由が複合的に存在します。加えて、トイレ設計自体が男性中心に作られてきた経緯があり、男性用便器が圧倒的に多いという構造的な不均衡が続いていました。

実際、2023年に日経新聞が報じた調査では、男性用便器の数は女性用の1.7倍にものぼります(※1)。
このような状況を是正しようとするのは、「優遇」ではなく「格差是正」です。




■「女性ばかり楽している」という主張の誤り

SNSでは上記のようなトイレ対策に対し、「女性は学生時代にチヤホヤされ、楽な仕事を選び、育休や生理休暇を取り、都合が悪くなれば男性をセクハラで訴えて逃げ道がある」といった極端な意見も見られました。

しかしながら、このような主張は次の点で誤りです:

男性でも力仕事をしていない人はたくさんいます。
事務職・営業職・IT職・管理職・経営者などは力仕事ではありません。
力仕事をしていないことを「女性だけの特権」と捉えるのは筋違いです。

力仕事を含む現場(介護・看護・清掃など)には女性が多数います。
むしろ重労働にもかかわらず賃金が低く見られがちな職種で、女性の方が多く働いています。

セクハラの訴えに対しては、企業も慎重に事実確認を行います。
気に入らない男性を簡単に処罰するようなことはできません。

生理休暇は「生理」という性差に基づく制度であり、男性にないのは当然です。

残業・転勤を断るのは男性も女性も同様です。
子育て・介護などを理由に、性別問わず希望を出すことがあり、それが「甘え」だと一方的に批判されるべきではありません。

育休や時短勤務を選ぶことで、評価や昇進に不利になる女性も多いのが現実です。
「楽している」と見なすのは、表面的な部分だけを切り取った偏見です。





■本当に必要なのは「男女の対立」ではなく「現実に即した共感と制度設計」

「女性ばかりズルい」という感情は、もしかすると一部の個人的な体験に由来しているのかもしれません。しかし、それを社会全体に当てはめて語ることは危険な一般化です。

本当に必要なのは、それぞれが抱える困難に目を向けた制度設計と、冷静な対話です。
トイレ問題にしても、労働環境にしても、「女性が優遇されすぎている」と怒るのではなく、なぜそうした制度が生まれたのか、背景にどんな不公平があったのかを見つめ直すことが、建設的な社会につながります。




参考文献

(※1)日本経済新聞(2023年7月18日)「女性トイレの行列、政府が是正へ緊急通知」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA186RQ0Y5A710C2000000/

厚生労働省「男女の雇用均等に関する調査」
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-22.html

内閣府 男女共同参画局「トイレに関する男女の不均衡」
 https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202112/202112_04.html





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