「子育て世帯の平均年収は700万円台」と聞くと、余裕があるように感じる方もいるかもしれません。
しかし、実際の調査では、そうした家庭の多くが「生活は大変苦しい」と感じているのです。
これは本当に“贅沢”の問題なのでしょうか?
いえ、そこには私たちが見過ごしてはならない「制度と現実のギャップ」があります。
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■年収700万円台の家庭の「手取り」はどれくらい?
まず最初に強調したいのは、年収と手取りはまったくの別物だということです。
年収700万円といっても、税金や社会保険料を差し引いたあとの実際に使えるお金(手取り)は約540~560万円程度にすぎません(扶養の人数や年齢によって若干の差あり)。
特に近年は、以下のような理由で手取りは大きく減っています。
・社会保険料(健康保険・厚生年金)の料率が上昇
・所得税・住民税の負担が重くなっている
・介護保険料、子ども子育て拠出金など新たな負担項目が追加された
つまり、数十年前と同じ年収でも、可処分所得はまったく異なるのです。
昔の感覚で「年収700万なら楽勝でしょ」と考えるのは、現代の家庭の苦しさを理解していない証拠です。
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■児童手当の所得制限は、ようやく撤廃されたばかり
もう一つ見逃せないのが、児童手当の所得制限問題です。
2022年度までは、世帯主の年収が約950万円を超えると、児童手当は「特例給付」として月5,000円に減額。さらに、2022年10月からはその特例すら廃止され、完全にゼロ円となっていました。
つまり、保育料や教育費は重くのしかかる一方で、高年収帯の子育て世帯は支援から外され続けていたのです。
そしてようやく2024年度から、児童手当の所得制限が撤廃され、ようやく公平性に一歩近づいた形になりました。
ただし、これまでに「制限されたまま支給されなかった過去分」は返ってきませんし、生活の余裕が急に生まれるわけでもありません。
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■「贅沢」のレッテルはミスリード
よくネット上で、「年収700万もあって生活が苦しいって、どれだけ贅沢してるんだ」という声を目にします。
しかし、これは非常に短絡的です。
・実際の手取りは550万円前後
・子どもが複数いれば、教育費や保育料、習い事、学用品、衣類などが重なる
・共働きが多数でも、非正規や時短勤務が多く収入は限定的
・保育園の送り迎えや病気時の対応でキャリアに制約がある
こうした実態を無視して「贅沢」の一言で片付けるのは、あまりに乱暴で、かえって社会全体の支援の目を遠ざけることになりかねません。
むしろ、こうした声こそが、子育て家庭を“自己責任論”に追い込んでいく原因のひとつなのです。
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■結論:年収だけで判断せず、手取りと制度の全体像を見るべき
現代の子育て家庭を考えるとき、「年収がいくらか」だけでなく、
・手取りはいくらか
・社会保険料・税金がどれだけ引かれているか
・支援制度が公平に届いているか
という視点を持つことが不可欠です。
「年収700万円台でも苦しい」というのは、家庭の浪費ではなく、社会構造の問題です。
個々の家庭の努力だけでどうにかできる段階を超えているからこそ、制度設計や支援のあり方に真剣に目を向ける必要があります。
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参考文献・データ元
厚生労働省「2023年 国民生活基礎調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa23/
厚労省「子ども・子育て支援制度の見直し」関連資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183000.html
LIMO「子育て世帯、平均年収700万円でも『生活が苦しい』が最多」
https://limo.media/articles/-/86477
All About「児童手当の所得制限が撤廃、改正内容をわかりやすく」
https://allabout.co.jp/gm/gc/502391/
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【コラム】子育て世帯の平均年収700万円台でも子育てが「苦しい」理由。手取り、児童手当、制度の現実
