近年、育児や介護といった家庭の事情を抱える社員が、会社の制度を活用することに対して「迷惑だ」「わがままだ」といった声が上がることがあります。しかし、そもそも制度とは、必要な人が利用できるように設計されているべきものではないでしょうか。もし制度をフル活用することが問題視されるのであれば、その制度自体に根本的な問題があるのではないかと考えます。
■制度は「使うためにある」
育児休業や介護休業、時短勤務などの制度は、法律で定められた権利であり、社員が家庭と仕事を両立させるために設けられています。これらの制度を利用することは、決して「わがまま」ではなく、むしろ企業が社員の多様なライフステージを支援するために必要な措置です。
ところが、実際には制度を利用することに対してネガティブな反応が見られることがあります。例えば、「制度を使うと周囲に迷惑がかかる」「自分だけが特別扱いされているように感じる」といった声です。これでは、制度が本来の目的を果たしていないと言わざるを得ません。
■求人広告の「だまし討ち」
また、求人広告で「育児支援あり」「フレックスタイム制度導入」といった文言を見かけますが、実際に入社してみると「制度はあるが利用しにくい」「利用すると周囲の反感を買う」といった現実が待っていることがあります。これは、企業が制度の実態を正直に伝えていないことに他なりません。
求人広告で「制度はあるが、利用には一定の配慮が必要です」と明記すれば、求職者も自分のライフスタイルに合った職場かどうかを判断しやすくなります。企業側も、制度を利用することに対する理解を深めてもらうための努力が求められるでしょう。
■「会社にすべてを捧げられる人」像の歪み
さらに問題なのは、「正社員とは会社にすべてを捧げるべきだ」という価値観が根強く残っていることです。確かに、企業への忠誠心や責任感は重要ですが、それが「家庭やプライベートを犠牲にしてでも働くべきだ」という考え方に繋がってしまっては本末転倒です。
実際、育児や介護を抱える社員は、家庭と仕事のバランスを取るためにフルタイムで働くことが難しい場合があります。しかし、だからといって非正規雇用や低待遇に甘んじるべきではありません。むしろ、企業は多様な働き方を認め、社員が自分らしく働ける環境を整えるべきです。
■構造的ミスマッチの解消が急務
このような問題の背景には、企業側の制度設計や文化、さらには社会全体の価値観が影響しています。例えば、育児や介護を理由にフルタイム勤務が難しい社員が、非正規雇用や低待遇に追いやられる現状は、構造的なミスマッチと言えます。
このミスマッチを解消するためには、企業が制度を実際に活用しやすい環境を整えることが必要です。具体的には、制度の利用が評価に繋がる仕組みを作る、制度利用者へのサポート体制を強化する、そして何よりも制度を利用することが「当たり前」となるような職場文化を築くことが求められます。
■結論
制度は、社員が家庭と仕事を両立させるための重要な手段です。もし制度を利用することが「迷惑」だと感じられるのであれば、その制度や職場環境に改善の余地があるということです。企業は、社員が自分らしく働けるような環境を整える責任があります。そして、私たち一人一人も、制度を利用することが当たり前である社会を作るために、声を上げていくことが大切だと考えます。
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参考文献
厚生労働省「育児・介護休業法の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144360.html
日本経済新聞「育児休業、男性の取得率上昇も…企業の対応に格差」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2962T0Z20C23A8000000/
日本労働組合総連合会「働き方改革の現状と課題」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/workingstyle/
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