子育て支援に関する行政の広報や育児冊子などで、よく目にする言葉があります。それは「困ったときは誰か頼れる人を見つけましょう」というメッセージです。一見すると温かく、もっともな提案に思えるかもしれません。
しかし、現実にはこの言葉に違和感を覚える方も多いのではないでしょうか。私自身も、その言葉に無責任さを感じることがあります。
■頻繁に頼られるのは迷惑?という風潮
現代では、親世代にあたる祖父母もまだ現役で働いていたり、自分たちの健康や生活に手一杯であったりするため、「孫疲れ」や「子育ては手伝いたいけど、毎日は無理」という声が多く聞かれます。
また、SNSなどでは「放置子は無視していい」といった投稿が拡散されることもあり、「頻繁に頼られるのは迷惑」という空気があるのも否定できません。
たとえ一時的に頼れる人が見つかったとしても、負担が大きくなると相手からやんわりと距離を取られてしまうこともあります。人間関係は「支援」ではなく「情け」のように扱われ、続かないことも多いのが現実です。
■頼れる人がいなくなったらどうするの?
「頼れる人」がいたとしても、その人が引っ越したり、病気になったりして、急に頼れなくなるケースもあります。お互い頼り合えていた人間関係が、ある日突然崩れることは、決して珍しくありません。
そうなると、「困ったときに頼れる人がいないあなたが悪い」「誰も頼れないのは準備不足」といった、暗黙の自己責任論が生まれてしまいます。
■人間関係に頼らない支援体制を
そこで必要なのは、「誰かを頼る」ことが前提の育児支援ではなく、「制度や場所」によって育児を支える仕組みです。人間関係に左右されない、持続可能な支援の形が今、求められているのです。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
・いつでも誰でも利用できる 中間支援拠点(たとえばショッピングモール併設の育児スペースなど)
・公的ベビーシッター制度の整備と拡充
・地域で孤立しないための 自由参加の子育てサロン
・LINEやSNSで相談できる24時間対応の育児チャット
・急な用事や心身の不調時に使える 一時保育・ショートステイの常設化
・経済的な不安が少ない 低額・無償の育児支援サービス
これらは、誰か個人に頼るのではなく、社会として子育てを支えるという考え方です。
■まとめ
「誰か頼れる人を見つけましょう」というメッセージだけでは、どうしても限界があります。それだけでは支援が足りない家庭も多く、個人間の関係性に大きく依存してしまいます。
行政は、自己責任ではなく、人に頼らなくても育児ができる制度や場所を提供する責任があります。
すべての家庭が孤立せず、安心して子どもを育てられる社会をつくるには、今こそ「仕組み」による支援の充実が必要ではないでしょうか。
—
参考文献・資料:
内閣府「少子化社会対策大綱」(2020年)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/taisaku/taikou/pdf/taikou2020.pdf
日本財団「孤育て全国調査」(2023年)
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/80550
NHK「“孫育て疲れ”の現実」
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2023/02/0203.html
—
#育児支援 #行政の責任 #孤育て #頼れる人がいない #人間関係に頼らない支援 #子育ての現実 #少子化対策 #ワンオペ育児 #子育て制度改革 #育児は社会全体で
【コラム】「頼れる人を見つけましょう」では限界があります 〜人間関係に頼らない育児支援を〜
