2020〜2022年の3年間で、妊産婦の自殺が162人にのぼったという報道がありました(福祉新聞・厚労省調査)。特に「産後3か月以降」に自殺リスクが高まる傾向があるといいます。
ある方のコメントに、深く心を揺さぶられました。
30歳で妊娠中、入院するほどの悪阻に加え当時夫との関係が悪く、妊娠中に何度も自殺したいと思った。支えになったのは実家の家族。退院後、悪阻で弱った私を看病してくれたので持ちこたえることができた。夫は悪阻の大変さを理解せず、看病もほぼせず、弱った私を姉が迎えに来てくれて実家に送り届けてくれた。そんな状況を理解せず実家に帰ったことに対して、夫は実家と私自身に嫌悪感を示していた。周りに支えてくれる家族がいなかったら、誰にも助けを求められず孤独死していたかもしれない。
この体験を読んで、私は「なぜ、ここまで共感の乏しい男性がいるのか?」という疑問を抱きました。
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■男性に共感力が育ちにくい理由とは
一部の男性は、妊娠中のつらさや産後の不安を前にしても、「自己管理ができていない」「そんなことで弱るのか」といった冷たい態度を取ってしまうことがあります。
その背景には、「男は強くあれ」「泣くな」「甘えるな」といった社会的な刷り込みがあるように思います。
男性は、弱さを否定されながら育つことが多く、自分自身が「共感される」体験を積みにくい傾向があります。
その結果、自分が許されなかった弱さを他人が見せていると、無意識に「許せない」「イライラする」と感じてしまうのです。
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■共感できる男性はどう育つのか
一方で、共感力のある男性もいます。
そうした人たちは、どのような経験をしてきたのでしょうか。
● 幼少期から感情を受け止められてきた
「怖かったね」「つらかったね」と気持ちに寄り添ってもらえた経験が、共感の土台になります。
● 固定的な性別役割を押し付けられてこなかった
「男だからこうあるべき」といった価値観より、「人としてどうあるか」に重きを置く家庭や教育環境で育った人は、他者の立場も柔軟に想像できます。
● 自分の弱さを認めてもらえた
「がんばらなくていい」「助けを求めてもいい」と言ってもらえた経験は、他人の弱さにも寛容さを持てるようになります。
● 共感が求められる経験をしてきた
育児・介護・看護・教育、または病気や障害のある家族との生活など、誰かの痛みに寄り添う場面を経験した人は、自然と共感力を培いやすくなります。
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■共感力は、生まれつきではなく「育ち」の中で育まれる
共感できるかどうかは「人間性」の問題ではなく、どんな環境で育ち、どんな経験をしてきたかの違いです。
共感力のある男性がいたなら、それは偶然ではありません。
「共感する力を潰されずに育った」こと、あるいは「後からでも誰かに育て直された」ことの証なのだと思います。
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■おわりに
妊娠・出産に関わる命の問題を、女性個人の「弱さ」や「性格」で片づけてはいけません。
そこには、共感力を育まれなかった男性たちの無理解や、弱さに寛容でない社会の構造が潜んでいます。
「共感できる男性をどう増やしていくか」。
この問いこそ、母親たちを孤立させない社会をつくる第一歩ではないでしょうか。
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参考文献
厚生労働省「妊産婦の自殺に関する調査研究事業報告書」(2023年)
内田良「共感力はどのように育まれるのか」(教育社会学研究)
斎藤環『「弱さ」を受け入れるということ』(筑摩書房)
岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社)
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【コラム】「共感できない男性たち」はどこから生まれるのか?妊産婦自殺の背景から見える“弱さへの無理解”
